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12.222025
遺言執行者制度を有効活用するコツ

遺言書を作っても、内容を実際に実行する段階で手続きが止まってしまうことがあります。
その原因の一つが、「遺言執行者」を決めていない(または役割を誤解している)ケースです。
遺言執行者は、遺言に書かれた内容を実現するために、相続手続きを進める“実務の窓口”となる存在です。相続人の人数が多い、財産が複数ある、相続人が遠方にいる、といった場面では、遺言執行者がいるかどうかで進み方が大きく変わります。
この記事では、遺言執行者制度の基本と、制度を上手に使うためのコツを整理します。
※不動産の相続登記の申請代理は司法書士、相続税の申告は税理士、相続をめぐる争いの代理交渉は弁護士の業務です。本記事はそれらの領域に踏み込まず、一般的な制度と準備のポイントを解説します。
遺言執行者とは何をする人?
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを進める立場の人です。
遺言執行者が選任されると、相続人がバラバラに動くのではなく、基本的に“執行者が中心となって進行管理できる”形になります。
遺言執行者が関わることが多い場面(一般例)
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相続人への連絡、手続きの段取りづくり
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財産目録の作成(何が遺産に含まれるかの整理)
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金融機関などの相続手続きに必要な書類の準備・提出
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遺言に基づく名義変更や引き渡しのための書類整備
※登記申請の代理や税務申告の代理は、各専門職の業務です。
遺言執行者を活用する3つのコツ
1. 「誰を執行者にするか」を先に決めておく
遺言執行者は、相続人でも第三者でも指定できます。
大切なのは「その人が最後まで動けるか」「相続人が納得できるか」です。
相続人の一人を執行者にする場合は、ほかの相続人が不信感を持たないよう、情報共有の方法(報告の頻度、資料の開示など)を想定しておくと安心です。
一方、相続人間の関係が微妙な場合は、第三者を執行者にすることで手続きが進みやすくなることもあります。
2. 執行者の権限・手順が分かる遺言にしておく
遺言が抽象的だと、執行者がいても動けません。
「どの財産を、誰に、どうするか」が分かる形にしておくのが実務上のポイントです。
特に、次のような財産は“特定の仕方”が重要です。
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不動産:所在地や地番など、同定できる情報
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預貯金:金融機関名・支店名など(細かい番号まで書けない場合は別紙の財産目録で整理)
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株式など:証券会社・銘柄の整理
3. 報酬・費用の扱いを先に整えておく
遺言執行者には報酬を定めることもできます。
トラブルになりやすいのは「報酬の有無や金額が曖昧」「実費精算の範囲が不明確」な場合です。
おすすめは次のどちらかです。
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遺言に「報酬あり/なし」「報酬額や算定方法」を明記しておく
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明記が難しい場合は「相続人の合意で定める」旨を入れ、運用のルール(見積・精算・報告)を決める
よくあるケース別の注意点
ケースA:公正証書遺言で執行者が指定されている
公正証書遺言は形式面の不備が起きにくく、執行の段取りが立てやすい傾向があります。
相続人へは「どの順番で何を進めるか」を最初に共有しておくと、無用な疑念や混乱を減らせます。
ケースB:遺言があっても相続人の不満が強い
遺言があっても、感情面の反発が強いと手続きが停滞することがあります。
執行者ができるのは、原則として遺言の実行と手続きの遂行です。相続人同士の対立が深く、代理交渉が必要な状況では、弁護士への相談を検討するのが安全です。
ケースC:執行者や相続人が遠方にいる
郵送・オンライン・委任状の扱いなど、段取り次第で進行が大きく変わります。
最初に「誰が何を用意するか」「原本が必要か」を一覧にして、手続きの見通しを立てるのがコツです。
行政書士に相談して整理できること
行政書士は、遺言執行者制度の活用に向けて、次のような“書類と段取り”の部分をサポートできます。
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遺言内容の整理(何を書けば実行しやすいかの整理)
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遺言執行者を置く場合の準備(役割・報酬・運用の整理)
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相続関係を整理するための戸籍等の収集サポート
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財産目録や、官公署等に提出する書類の作成
登記・税務・紛争など、他士業の領域が関係する場合は、必要に応じて連携先へ橋渡ししながら、全体が止まらないよう“交通整理”をするイメージです。
まとめ
遺言執行者制度は、遺言を「書いたまま」にせず「実現する」ための仕組みです。
上手に活用するポイントは次の3つです。
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執行者に適した人を早めに決める
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実行できるレベルまで遺言内容を具体化する
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報酬・費用・報告のルールをあらかじめ整える
遺言を残す目的は、相続人に負担を残さず、想いを形にすることです。
「この書き方で実行できる?」「執行者をどう決める?」と迷ったら、まずは現状整理から始めてみましょう。



