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12.102025
「遺言能力」とは何か?判断基準とトラブル予防の視点

遺言書は、相続における大切な「最後の意思表示」です。
しかし、どれだけ内容が整っていても、遺言者に「遺言能力」がなかったと判断されてしまうと、その遺言は無効になるおそれがあります。
ここでいう「遺言能力」とは、
遺言をする時点で、自分の財産や家族関係を理解し、その結果を見通したうえで、自分の意思で内容を決められる力
を指します。
高齢化や認知症の増加に伴い、
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「この状態で作った遺言は有効なのか?」
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「遺言能力がなかったと主張されて、相続でもめている」
といったご相談は、川崎市を含む多くの地域で確実に増えています。
この記事では、
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遺言能力が問題になりやすいケース
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一般的に重視される判断のポイント
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トラブルを減らすために、遺言作成時に意識しておきたいこと
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行政書士ができるサポート/他の専門職に相談すべき場面
を、できるだけ分かりやすく整理してお伝えします。
1. 遺言能力が問題になりやすい場面
遺言能力は、特に次のようなケースで争点になりがちです。
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高齢で、認知症や物忘れの症状がある
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入退院を繰り返していて、薬の影響や体調の波が大きい
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遺言の内容が、特定の相続人に極端に有利/不利になっている
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遺言作成の経緯が、他の家族から見て不自然に見える
相続が始まったあと、
「そのとき本当に状況を理解していたのか?」
「誰かに誘導されて書かされたのでは?」
と疑われると、遺言の内容そのものよりも、**「遺言能力の有無」**が争いの中心になってしまうことも少なくありません。
一度もめてしまうと、
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医療記録や診断書
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当時の会話の様子
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作成に立ち会った第三者の証言 など
さまざまな材料を集めて検討することになり、手続きが長期化することもあります。
2. 法律上の「遺言能力」とは
民法では、原則として「満15歳以上であれば遺言ができる」とされており、
成人であっても、遺言時点で意思能力がなければ無効となります。
実務上、判断のポイントとされやすいのは、次のような点です。
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自分にどのような財産があるか、おおまかに理解しているか
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誰が自分の家族・相続人にあたるかを理解しているか
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この人に多く/少なく渡すと、どんな結果になるかを理解しているか
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誰かに強制されてではなく、自分の意思で決めていると言えるか
ここで注意したいのは、
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「認知症の診断=必ず遺言能力なし」ではない
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診断がないからといって、必ず安全というわけでもない
という点です。
同じ診断名でも、症状の程度や、その日の体調・時間帯によって判断力が変わることはよくあります。
そのため、遺言能力の有無は、医療面の情報と、遺言の具体的な内容・経緯などを総合して考えられることになります。
※実際に有効かどうかの最終判断は、紛争になった場合には裁判所が行います。
3. トラブルを減らすための実務的な工夫
ここからは、遺言能力をめぐる争いを少しでも減らすために、
遺言作成時に意識しておきたいポイントを整理します。
(1) 体調や状況が比較的安定しているタイミングで作成する
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できるだけ体調が落ち着いている時期・時間帯を選ぶ
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入退院を繰り返している場合、主治医の意見も踏まえて時期を検討する
重い病気が進行してから「急いで作る」となるほど、
後から「本当に能力があったのか?」と争われやすくなります。
(2) 医師の診断書などを活用する
行政書士は医師の診断や医学的評価を行うことはできませんが、
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遺言作成の前後で主治医に相談し、
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必要に応じて、当時の状態がわかる診断書や意見書をもらっておく
といった対応は、後に紛争になった場合の客観的な資料として有用です。
(3) 面談でのやりとりを丁寧に確認・記録しておく
行政書士として関わるときには、
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本人がどのように家族関係や財産のことを話しているか
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遺言内容について、自分の言葉で説明できているか
といった点を、時間をかけて確認します。
そのうえで、面談記録やメモを残しておくことで、
「そのとき、少なくともこれくらい理解して話していた」
という状況説明の手がかりになります。
※あくまで「事実経過の記録」であり、「遺言能力があった/なかった」と最終的に判断するのは裁判所や医師・弁護士等の領域になります。
4. 行政書士ができること・他の専門職に任せるべきこと
行政書士がサポートできる主な範囲
遺言能力に不安があるケースでも、行政書士は次のような形でお手伝いできます。
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遺言制度の仕組みや、遺言能力に関する一般的な考え方の説明
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戸籍の収集や相続関係の整理(誰が相続人かの確認)
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財産の一覧表(財産目録)作成のサポート
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本人との面談を通じた意向の聴き取り
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それをもとにした遺言書案の作成(自筆証書/公正証書の文案作成補助)
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遺言作成のタイミングで、医療機関への受診を勧めるなどのアドバイス
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必要に応じた、弁護士・司法書士・税理士・医師などへの相談・紹介
他士業の専門領域(行政書士が踏み込まない部分)
逆に、次のような部分は、行政書士の業務範囲を超えます。
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遺言の有効性について、紛争の相手方と交渉・調停・訴訟を行うこと(→弁護士の領域)
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裁判所に提出するための、法的な主張を伴う意見書・鑑定の作成(→主に弁護士・医師など)
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専門的な精神鑑定の実施や、その依頼窓口としての役割(→医師・弁護士等)
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遺言無効確認訴訟や遺留分侵害額請求など、訴訟手続の代理(→弁護士)
遺言能力に関する争いがすでに表面化している場合、
行政書士だけで完結させようとせず、弁護士など適切な専門家の関与が必要になります。
行政書士の役割は、
・事実関係の整理
・資料や経緯の記録
・他の専門家に相談するための「土台づくり」
だと考えていただくと、イメージしやすいと思います。
5. 「こんなとき相談してもいいの?」という目安
川崎市などで相続・遺言のご相談を受けていると、
遺言能力に関しては次のようなタイミングでご相談いただくことが多いです。
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高齢の親が遺言を書きたいと言っているが、判断力が少し心配
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すでに自筆の遺言があるが、「この状態で書いたもので大丈夫か」不安
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これから公正証書遺言を作りたいが、どのタイミングで医師に相談したらよいか迷っている
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相続人の一部から「そのとき遺言能力がなかったのでは」と言われていて、不安になっている
こうした場面では、
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まず現状を整理
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遺言の種類(自筆/公正証書)や進め方を一緒に検討
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医師・弁護士等に相談した方がよい点があれば、その旨をお伝えする
という流れで、「今できる現実的な一歩」を一緒に考えていくイメージです。
6. まとめ
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遺言能力は、遺言の有効性と、遺言者の真意を守るための大事な要件。
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認知症の有無だけで白黒が決まるものではなく、
「その時点で、どれだけ理解して自分で決めていたか」 がポイントになります。 -
体調が安定しているうちに、できるだけ早めに準備を始めることで、
後のトラブルを大きく減らすことができます。 -
行政書士は、
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制度や流れの説明
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相続関係・財産の整理
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遺言内容の整理と文案作成
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医師や弁護士への橋渡し
といった部分でお手伝いできます。
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すでに争いが起きている場合や、裁判・調停が視野に入る場合は、
弁護士など他の専門家と連携して対応することが必要です。
「うちの親の状態で、今から遺言を作る意味はあるのか?」
「この遺言書が、あとで無効だと言われないか心配だ」
そんな不安が出てきた段階で、一度専門家に状況を話してみるだけでも、
ずいぶん気持ちが軽くなることがあります。
川崎市周辺にお住まいの方であれば、
地域の医療・福祉機関の情報も踏まえながら、より具体的なサポートプランを一緒に考えていくことも可能です。


