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12.92025
不動産共有相続のトラブルを防ぐ方法

相続で不動産を引き継いだとき、相続人全員で共有名義にしたまま放置されているケースは少なくありません。
一見「平等」で良さそうに思えますが、実務上はトラブルの温床になりやすい形です。
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固定資産税や修繕費を「誰がどれだけ負担するのか」
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将来、売却・賃貸・建て替えなどを「どう決めるのか」
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共有者の一人が連絡不通・高齢・認知症になったときどうするのか
こうした点が曖昧なまま時間だけが過ぎると、
家族関係の悪化や、不動産の価値低下、最終的には紛争化につながることがあります。
この記事では、行政書士として相続・遺言の相談を受ける立場から、
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不動産の共有相続で起こりがちな問題
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トラブルを防ぐための基本的な考え方
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行政書士が関われるサポート内容と、他士業との役割分担
を整理して解説します。
1. 共有相続で起こりやすいトラブル
不動産を複数人で共有すると、主に次のような場面で問題が表面化します。
① 管理費・固定資産税の負担でもめる
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誰がどれだけ負担するのか事前に決めていない
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実際に支払っている人と、ほとんど負担していない人がいる
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長年の不公平感が積み重なり、相続人同士の関係が悪化する
② 売却・賃貸の意思決定がまとまらない
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「売りたい人」と「残したい人」で意見が割れる
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一部の共有者が連絡に応じない/海外・遠方在住で話が進まない
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結果として、建物が老朽化し、不動産としての価値が下がる
③ 共有者の高齢化・認知症で手続きが進まない
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共有者の一人に判断能力の低下が見られる
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成年後見人選任などが必要になり、協議・手続きが重くなる
本来なら「遺産分割の段階でどうするか」を決めておくべきところを、
とりあえず共有にしてあとで考える
という選択をすると、このような問題が先送りされてしまいます。
2. トラブルを減らすための基本方針
共有相続のトラブル防止で大事なのは、次の3つです。
① 共有のまま放置しない
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相続発生後、早い段階で遺産分割協議を行う
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「誰がその不動産を引き継ぐのか」「売却するのか」を話し合う
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話がつかない場合でも、「当面の管理方法・費用負担のルール」だけでも決めておく
② できれば共有を解消しておく
代表的な選択肢としては、
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不動産を売却して代金を分ける
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特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う
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区分できる物件であれば、物理的・法的な分割を検討する
などがあります。
どれが適切かは、家族構成・資産状況・今後の利用予定によって変わります。
③ どうしても共有にするなら「ルールを文書で決める」
共有にせざるをえない場合は、せめて次のような内容を書面で合意しておくと安心です。
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固定資産税・修繕費などの負担割合と支払方法
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賃貸する場合の賃料の受け取り方・管理方法
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将来売却する場合の条件(いくらを目安にするか など)
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管理の窓口になる人(代表共有者)の決め方
これらは「共有物管理に関する合意書」などの形でまとめておくと、
後々の「言った/言わない」の争いを減らすことができます。
3. 行政書士ができること・できないこと
不動産の共有相続に関して、行政書士が関われるのは主に次のような部分です。
行政書士がサポートできる主な内容
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相続の基本的な仕組みや、不動産共有のメリット・デメリットの説明
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戸籍の収集や相続関係説明図の作成(誰が相続人かを整理)
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財産目録の作成補助(不動産や預貯金などの一覧表づくり)
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遺産分割協議の内容をもとにした
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遺産分割協議書
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共有物管理に関する合意書
などの書面作成
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成年後見制度の利用や遺言作成検討など、今後の方針に関する一般的なアドバイス
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必要に応じて、弁護士・司法書士・税理士・不動産会社など、
他の専門職との連携・紹介
行政書士の業務範囲を超える部分(他士業の領域)
以下のような事項は、行政書士ではなく別の専門職が担います。
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相続人同士が対立しているケースでの、
代理人としての交渉・調停・訴訟対応(→ 弁護士) -
不動産の相続登記の申請代理(→ 原則、司法書士)
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相続税額の具体的な試算や、申告書の作成・提出(→ 税理士)
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専門的な不動産鑑定評価(→ 不動産鑑定士 等)
行政書士は、これら他士業の分野に踏み込むことはできません。
ただし、相続の全体像を整理しつつ、**「どの段階でどの専門家に相談すべきか」**を一緒に考える役割は十分に担えます。
4. 典型的なケースイメージ
実際のご相談でも、次のようなパターンがよく見られます。
ケース1:兄弟姉妹で親名義の自宅を共有したが、管理が負担に
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共有名義にしたまま数年放置
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固定資産税や修繕費を、実家近くに住む人だけが負担
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「売りたい人」と「残したい人」で意見が割れる
このようなケースでは、
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まずは相続人全員の意向を整理
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不動産会社等に査定を依頼し、おおよその価格を把握
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売却か、特定の人が取得するか、いくつかの案を一緒に検討
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まとまった内容を遺産分割協議書に落とし込む
といった流れで、合意内容を「きちんとした書面」にすることがポイントになります。
登記申請自体は司法書士などに依頼しつつ、行政書士はその前段階の整理と書面作成を担当するイメージです。
ケース2:共有のまま賃貸を始めたが、ルールがなく行き詰まった例
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共有不動産を賃貸し、家賃は代表者の口座に入れていた
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数年後、「どう分配されているのか分からない」と不信感が生まれる
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修繕費の負担についても「どこまでやるか」で対立
こうした場合には、
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家賃・経費の扱いを整理した「共有物管理に関する合意書」
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管理業者に任せるか、誰が窓口になるかのルール
を文書化しておくことで、
お金の流れと役割分担を透明にすることができます。
5. 共有相続で特に注意したいポイント
不動産共有相続で「これは押さえておきたい」というポイントをまとめると、次のとおりです。
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共有名義をゴールだと思わない
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共有はあくまで「一時的な仮の状態」と考えた方が安全です。
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相続登記は必ず行う
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2024年以降、一定の場合には相続登記が義務化されました。
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名義を故人のまま放置すると、後の世代で手続きがさらに難しくなります。
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税金・評価の問題は税理士等と連携して検討する
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不動産評価や相続税の扱いは、専門的な判断が必要なことが多い分野です。
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相続人の高齢化・判断能力低下も見据える
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共有者の一人が認知症等になった場合、売却や分割が難しくなります。
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必要に応じて、成年後見制度の利用を含めた検討が必要です。
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6. まとめ
不動産の共有相続は、
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「とりあえず平等だから」と選びがちな一方で、
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長期的にはトラブルの火種になりやすい形でもあります。
大切なのは、
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共有名義を放置せず、早い段階で方針を話し合うこと
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合意した内容を、きちんとした書面にしておくこと
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行政書士・司法書士・税理士・弁護士など、
それぞれの専門家の役割を踏まえて相談先を選ぶこと
です。
行政書士は、
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相続の基本整理
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相続人・財産の把握
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協議内容を文書にまとめる部分
などでお手伝いできますし、他の士業と連携しながら、
相続手続き全体をスムーズに進める「入口役」としても機能できます。
「うちのケースだと、売却・共有継続・特定の相続人への名義集中、どれが現実的?」
「まず何から手をつければ良いのか分からない」
といった段階からで構いません。
悩みが大きくなる前に、早めに専門家に相談していただくことをおすすめします。



