行政書士中村俊介事務所

遺言書は相続における故人の意思を示す大切な文書ですが、内容が曖昧なまま作成されると、かえって遺志が実現できなくなることがあります。
抽象的な文言や財産の特定不足、形式上の不備などにより、相続人間で解釈が分かれてしまい、話し合いが長期化する例も少なくありません。

特に都市部では、家族の居住地が離れていたり、金融資産・不動産が複数にわたるため、曖昧な遺言が原因で「誰が何をどのように受け継ぐのか」が不明確になり、結果として遺志の実現が難しくなる傾向があります。

本記事では、実際に起こり得る曖昧な遺言書の問題点と、その回避方法を行政書士の視点から整理します。
※以下は一般的解説であり、紛争の代理・調停手続きの代理などは弁護士の業務です。

■ 遺言書の曖昧さが招く主な問題点

1. 財産の特定不足

例：「家の財産はみんなで分ける」
→ 不動産のどれを指すのか、預金は含まれるのかが不明で相続人の認識が分裂する。

改善策：

• 不動産は所在地・地番、預金は銀行名・支店名・口座番号まで明記

• 財産目録を併用し、財産の範囲を明確化

2. 相続人の範囲や分配割合の曖昧さ

例：「家族で話し合って決めてほしい」
→ 具体的な根拠がないため、協議がまとまらないリスクが高まる。

改善策：

• 「長男に自宅を相続」「預金の○割を○○に」など明確に記載

• 代償分割がある場合は金額や方法も明記

3. 遺言執行者が明確でない

遺言執行者が指定されていないと、誰が手続きを担うのか相続人間で合意が必要となり、時間がかかる。

改善策：

• 信頼できる個人や専門家を遺言書で指定

• 権限も可能な範囲で具体的に記載
  （※遺言執行者への就任依頼は可能。相続紛争の交渉代理は弁護士の業務。）

4. 法的要件を満たさない自筆証書遺言

• 日付欠落

• 署名がない

• 添付資料に署名・押印がない
  → 無効となり、遺言が存在しないのと同じ結果になる。

改善策：

• 公正証書遺言の活用（形式不備のリスクが低い）

• 自筆証書遺言保管制度を利用し、家庭裁判所の検認手続き不要にする

■ ケース例（行政書士業務範囲に配慮した説明）

ケース1：財産目録の不備で相続人間の認識が分裂

不動産のみ記載され、預金が記されていなかったため、「遺言の対象に含まれるのか」で相続人が対立。
行政書士の支援例：

• 財産一覧の整理

• 遺言書の表現と法律上の扱いの説明

• 話し合いに必要な資料の整備
  （※調停代理や法律上の争点処理は弁護士の領域）

ケース2：抽象表現が原因で分割方法が決まらない

「長生きしている家族に配慮してほしい」と書かれ、誰を指すのか不明確。
行政書士の支援例：

• 遺言文案の具体化

• 財産ごとの分配案の提示
  （※相続人間の利害調整の代理は行わない）

ケース3：執行者不在で手続きが停滞

遺言執行者が決まらず、各手続きが進まない。
行政書士の支援例：

• 遺言執行者を指定する文言の作成支援

• 手続きの段取り整理
  （※裁判所への申立代理は司法書士・弁護士の業務）

■ 遺言書作成で行政書士が支援できる範囲

行政書士ができること

• 遺言文案の作成補助

• 財産リスト（目録）作成の支援

• 相続人調査（戸籍取得の代行）

• 公正証書遺言作成のための資料整理・公証役場との調整補助

• 自筆証書遺言保管制度利用の説明

• 相続開始後の必要書類収集や手続き段取り整理

行政書士ができないこと

• 遺産分割の代理交渉

• 調停・審判の代理

• 裁判所への申立て代理
  → これらは弁護士・司法書士の専門領域。

■ まとめ

遺言書が曖昧だと、遺言者が望まない方向で遺産が分配されたり、不要な対立が生まれることさえあります。
重要なのは次の4点です。

1. 財産は具体的に特定する

2. 相続人・分配方法を明確に書く

3. 遺言執行者を指定する

4. 自筆証書遺言は法的要件を必ず満たす

行政書士は、遺言書の内容整理や文案作成、公正証書遺言の準備など、形式面・資料面の整備を通じてトラブル防止をサポートできます。

曖昧な遺言を残さないために、早めに専門家へ相談し、確実に実現できる遺言書を作ることが大切です。